マイクロバイアルシフト むし歯・歯周病は治らない!?【歯っぴー通信第56号Web版】

歯科の2大疾患といえば、むし歯(齲蝕)と歯周病です。どちらの疾患もお口の中の細菌が原因で引き起こされる感染症です。

皆さんの中には、感染症であるなら何故、むし歯や歯周病菌に対するワクチンが無いのだろうと思う方もいるでしょう。インターネットなどで「むし歯のワクチンは作ることができるのに、むし歯がなくなると歯医者が困るので作られていない。」などという陰謀論を目にすることもあります。

確かに、以前はむし歯や歯周病は原因菌さえ取り除けば治せると考えられ、その原因菌の特定や、その菌を取り除く方法が長らく検討されていました。現在、むし歯や歯周病の原因菌はおおよそ特定されています。しかし、この菌を完全に取り除く方法が無いことも解ってきました。それは、むし歯菌も歯周病菌もお口の中に常に存在している常在菌だからです。常在菌は取り除いても時間が経てばお口の中に定着します。原因菌が完全に除去できない以上、残念ながらむし歯も歯周病も「治らない」と言わざるを得ません。では、私たちはこの疾患にどう立ち向かえば良いのでしょうか。その答えは・・・細菌と仲良くしていくことです。

私たちの体表や口腔、腸などの消化器官には非常に多くの細菌が存在しています。その構成は通常、善玉菌:悪玉菌:日和見菌(その状況で良くも悪くも働く菌)が2:1:7の割合とされています。細菌の細かい構成は個々人によって違いはあるものの、通常は病原性がなく安定しています。しかし、生活環境などによりこのバランスは崩れ、病原性を発揮します。病原性のない状態から病原性を発揮する状態に変化することをマイクロバイアルシフト(Microbialsift)といいます。口腔でマイクロバイアルシフトが起こるとむし歯や歯周病が発病します。

マイクロバイアルシフト

むし歯の原因となるのはミュータンス菌を始めとする酸を生する菌で、その栄養源は糖です。また、細菌の中には酸を和するような働きを持つ菌もいます。この糖を摂取する機会か多ければ酸を産生する菌の占める割合は多くなり、そうしたはむし歯になりやすいといえます。むし歯の真の治療とはマクロバイアルシフトを起こしてしまった口腔内の菌叢を正常状態へ戻すことなのです。

マイクロバイアルシフト

歯周病も同様にマイクロバイアルシフトから起こります。歯周病を引き起こす代表的な菌としてジンジバリス菌がいます。この菌は血液中の鉄分を栄養としています。歯肉に炎症があると出血を起こし、出血がある部分ではジンジバリス菌が活性化し、細菌のバランスが崩れ歯周病を悪化させます。歯周病の治療とは口腔内の環境を改善し、崩れてしまった細菌のバランスを病原性のない安定した状態に戻すことです。細菌のバランスが安定した状態に戻ると、歯周病の進行は止まります。しかし、歯周病を引き起こす菌が完全にいなくなることは無いのです

それらの菌は常に口腔内に存在し、自分が活動できる環境になる時を待ち構えています。そして、ひとたび環境が悪化すればまた歯周病を引き起こす菌が活性化し歯周病が発症します。歯周病の治療でセルフケアとプロフェッショナルケアが継続的に必要になるのは、歯周病の発症を抑えるにはバランスを維持し続け、マイクロバイアルシフトが起こらないようにする必要があるからなのです。

人の体には多種多様な菌が存在し共生関係にあります。細菌を敵視し、闇雲に殺菌をするだけでは却ってマイクロバイアルシフトを起こし疾患の原因になってしまうこともあります。環境を整え、細菌たちと仲良く暮らしていくことが健康のためには必須であることを是非考えてみてください。(小原成将)

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